怒涛の展開に引き込まれる!時間を忘れるほどの絶品ミステリー小説15選

怒涛の展開に引き込まれる!時間を忘れるほどの絶品ミステリー小説15選

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怒涛の展開に引き込まれる!時間を忘れるほどの絶品ミステリー小説15選 怒涛の展開に引き込まれる!時間を忘れるほどの絶品ミステリー小説15選

早朝の通勤電車、帰宅後のちょっとした時間。

『カンガルー日和』(村上春樹)『昨日のカレー、明日のパン』(木皿泉)など、数十分で読み終えてしまう、爽やかな読後感の短編小説はカバンのお供に最適だ。

しかし年に数回、時間を忘れて朝まで小説を読み耽りたくなる衝動に駆られる。

私の場合、書店で見慣れた背表紙を目にした瞬間がそうだ。

はじめて小説を読みながら朝を迎えたのは高校生の頃だった。今や30代。夜通し起きていると次の日に響く。

だが、そう分かっていても引き込まれてしまう魔力を持った小説がある。

小説こそが生涯の友と言っても良い私が独断でセレクトした、珠玉のミステリー小説

今回は、小説こそが生涯の友と言っても良い私が独断でセレクトした、珠玉のミステリー小説をご紹介したい。

今回紹介するタイトルを知らない人へ:どれか一冊でも構わないので、ぜひ一度手に取ってみて欲しい。

ちなみに読むなら金曜の夜がオススメだ。次の日の仕事に差し支える心配もない。

既に読んだことのある人へ:小説の読み方は人それぞれだ。内容やストーリーに対して、私とは違う解釈を持っているかもしれない。

もしくは同じ一冊の良さを分かち合えたら、それはとても幸せな事だ。ぜひあなたの意見を一言添えてもらえると嬉しい。

筆者は本当のミステリー小説を知らない!と思った人へ:人の書評を読むことは、新しい世界との出会いだと思っている。

私が知らないかもしれない、あなたのお気に入りの一冊をぜひ教えてほしい。

では、はじめよう。

『幻の女』ウィリアム・アイリッシュ

『幻の女』ウィリアム・アイリッシュ

“夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は若かった。”――この、まさに夜の読書にうってつけの書き出しではじまる本書こそ、私がなにを置いても推したい一冊だ。

発表は1942年。だが、その内容はいささかも古びていない。人呼んでサスペンスの金字塔、ミステリー小説ベストテンの常連。

かの江戸川乱歩が激賞したことでも有名だ。曰く、“不可能性、サスペンス、スリル、申し分なし……“。

舞台はニューヨーク。32歳の株式ブローカー・スコット・ヘンダースンは、ある夜、妻と喧嘩をして家を飛び出す。

バーで出会ったのは、オレンジ色の南瓜(かぼちゃ)みたいな帽子をかぶった女性。妻への腹いせに、スコットは名も知らぬ彼女を誘い、食事をし、ショーを観劇する。

妖しい魅力を放つ謎の女性との一夜の関係。だが帰宅した彼は、妻が何者かによって絞殺されていたことを知る。凶器は彼のネクタイ。有罪の判決を受けたスコットは、死刑の宣告を受ける――。

手に汗握るストーリーはもちろん、独特の哀しみをたたえた叙情豊かな文章もたまらない。

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『アクロイド殺し』アガサ・クリスティ

『アクロイド殺し』アガサ・クリスティ

「そそ、そうきたか!」――本作をはじめて読んだとき、私は思わず叫んでしまった。中学二年のころだ。この衝撃をいますぐ誰かに伝えたい。

だが当時はSNSなどなかったので、どうしようもなくなった私は、ベッドの上で両手両足をバタつかせてクロールの真似をしていた。

思えばあれが、私の人生ではじめての「コロンブスの卵」体験だったのかもしれない。

ストーリーはシンプルだ。イギリスの片田舎キングス・アボット村である未亡人が亡くなった。医師である語り手の〈わたし〉は検死をおこない、死因は睡眠薬の過剰摂取であると診断する。

未亡人は同じ村の大富豪ロジャー・アクロイドと再婚予定だった。しばらくして、そのロジャーが何者かに刺殺される。〈わたし〉に死ぬ直前の未亡人から受け取ったという手紙を渡したすぐ後に。

ロジャーの姪フローラは、引退して村で隠遁生活を送っていた名探偵エルキュール・ポワロに助けを求める。そしてポワロは〈わたし〉とともに事件の真相究明に乗り出した――。

まだ本作を読んだことのない方へ。正直に告白しよう。まだ人生に、この作品をはじめて読むという楽しみが残っているあなたが、私はうらやましくて仕方がないのだ。

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『屍人荘の殺人』今村昌弘

『屍人荘の殺人』今村昌弘

ここで新しい小説にもご登場を願おう。読んでいなくても作品名は存じの方も多いかと思う。

なにしろ発売当初から、SNSなどで話題沸騰だった。私も仕事中にこっそり覗いたtwitterで評判を知り、矢も楯もたまらず本屋に駆け込んだクチだ。

読んで驚いた。唸らされた。いわゆるクローズドサークルものではあるのだが、設定、ストーリー、トリック、どれをとっても斬新さが光っている。夢中になって、その日のうちに一気に読み切ってしまった。

大学のミステリ愛好会に所属する主人公たちは、映画研究部の夏合宿に参加する。合宿一日目の夜。肝試しの最中にある〈衝撃の事態〉に遭遇した彼らは、ペンション「紫湛荘(しじんそう)」に戻り、立てこもる。

不安な一夜を過ごした翌日、密室で部員のひとりが死体で発見され……おっと、このままではネタばらしになってしまう。

鮎川哲也賞の選評で、作家の北村薫氏はこのように書いている。

「ありきたりの学生の夏合宿ものかと思って読み進めていくと、目を疑う展開が待っています。野球の試合を見に行ったら、いきなり闘牛になるようなものです。それで驚かない人がいますか?」

付け加えることはない。ただ強いて言うなら、私にとっては闘牛よりも、劇団四季のミュージカルの方が相応しいかもしれない。それほどの衝撃だったのだ。

サスペンスフルなだけでなく、ホラー、ユーモア、さらに〈萌え〉の要素まである。ミステリーに馴染みのない方でも楽しめる作品だ。

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『血の収穫』ダシール・ハメット

『血の収穫』ダシール・ハメット

はじめてこの作品を読んだときの衝撃は忘れられない。

それまで私が読んできたミステリー小説に登場する探偵たちは、性格の違いこそあれ、いずれも”強きをくじき、弱きを助ける”タイプ、つまり正義感の塊のような男たちだった。しかし……。

この小説の主人公、コンティネンタル・オプこと〈おれ〉ときたらどうだ。

行動の基準はあくまでおのれの都合と価値観。正義感だの、世間一般の倫理観だのは端(はな)からあてにしちゃいない。相手がどんな奴だろうが裏切りなんて朝飯前。まさに、絵に描いたような利己的な男なのである。

謎解き要素の少なさ、粗削りともいえるプロットは、いわゆる本格ミステリーファンには物足りないかもしれない。

だが、それが一体なんだというのだ。利権と汚職とギャングの縄張り争いがはびこる小さな鉱山町。そこを所狭しと車が駆け回り、数え切れないほど銃が火を噴く。

余計な感傷なんて入り込む隙もない、圧倒的なスピード感とアクションは、そんじょそこらの現代の映画だってかなわないだろう。

いわずと知れたハードボイルド小説の創始者、ダシール・ハメットのデビュー長編。黒沢明が映画『用心棒』の原案にした作品としても有名だ。

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『長いお別れ』レイモンド・チャンドラー

『長いお別れ』レイモンド・チャンドラー

緻密で巧妙なトリックも良いだろう。開いた口が塞がらない、奇想天外などんでん返しだって大歓迎だ。しかし、そればかりでは食傷する。

そんなとき、決まって私はレイモンド・チャンドラーの小説を手に取り、ソファーに深くからだを沈める。もちろん傍らにはバーボンを用意して。

数あるチャンドラーの作品のなかでも、一番のお気に入りは『長いお別れ』だ。なぜか?と問われてもうまく答えられない。

『さらば愛しき人よ』だって大好きだ。『プレイバック』も忘れられない。あの”強くなければ生きていけない、優しくなければ生きている資格がない”というフィリップ・マーロウの言葉で、何度おのれを奮い立たせたことか。

だが、やはり『長いお別れ』なのだ。繰り返し読んでいるので、ストーリーも細部もほとんど頭に入っている。

だからもう、そこには人がミステリーに求める〈スリル〉や〈驚き〉ははない。ただただクールな叙情に満ちた文章で綴られる、素晴らしいシーンの数々に身をゆだねていたいだけなのだ。

女に見放されたテリー・レノックスとマーロウが、5月の夕方、店を開けたばかりのバーで過ごす場面。サスペンスフルなストーリ―のなかで小春日和のような暖かさに包まれる、マーロウと彼に想いを寄せるリンダ・ローリングとの会話―――。

これほど贅沢な体験は、他に思いつかない。

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『黒死館殺人事件』小栗虫太郎

『黒死館殺人事件』小栗虫太郎

〈日本三大奇書〉と呼ばれているヤバい小説たちをご存じだろうか?

夢野久作『ドグラ・マグラ』、中井英夫『虚無への供物』、そして本書、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』だ。

いずれも異様な雰囲気をたたえたミステリー小説なのだが(『ドグラ・マグラ』は読むと精神に異常をきたすと言われている)、個人的には小栗虫太郎のこの作品が断トツでブッ飛んでいると思っている。

とにかく尋常ではない。なにが尋常ではないといって、すべてがだ。

舞台となるのは〈黒死館〉と呼ばれる古い屋敷だ。かつてヨーロッパで黒死病(ペスト)による死者を収容した城館に似ていることから、そう名付けられたという。

屋敷に住人は、16世紀の天正遣欧少年使節の一人を祖とするという降矢木(ふりやぎ)家の一族。40年間一度も館から出たことのない弦楽四重奏団までいる(メンバーは全員外国人だ)。

そんな彼らを、次々と不可解な死が襲ってゆくのだ。

しかしなんと言っても、真相究明のために呼び寄せられた探偵、法水麟太郎の超絶的推理が強烈なインパクトを残す。

「アインシュタインは、太陽から出た光線が球形宇宙の縁(へり)を廻って、再び旧(もと)の点に帰って来ると云うのです。そして、そのために、最初宇宙の極限に達した時、そこで第一の像を作り、それから、数百万年の旅を続けて球の外圏を廻ってから、今度は背後に当る対向点まで来ると、そこで第二の像を作ると云うのです。しかしその時には、すでに太陽は死滅していて一個の暗黒星にすぎないでしょう。つまり、映像と対称する実体が、天体としての生存の世界にはないのです。どうでしょう久我さん、実体(・・)は(・)死滅(・・・)して(・・)いる(・・)にもかかわらず(・・・・・・・)過去(・・)の(・)映像(・・)が(・)現れる(・・・)―――その因果関係が、ちょうどこの場合算哲博士と六人の死者との関係に相似してやしませんか」(『黒死館殺人事件』)

一応言っておくが、本作は宇宙を舞台にしたSFではない。

だが法水は、終始こんな調子で、他にも哲学・文学・数学・医学・音楽・神秘思想・悪魔学・宗教学・占星術・史学・心理学…などの知識を総動員して推理してゆくのだ。

その奔流のように溢れだす蘊蓄(うんちく)は、さながら万華鏡を見るように読者を眩惑せずにはおかない。

初版発刊は1935年。第二次世界大戦時、戦地に向かったミステリー好きの若者たちは、仏典でも聖書でもなくこの小説を持っていったというエピソードも有名だ。狂った現実のなかで正気を保つためには、これくらい強烈な本が必要だったということだろうか。

だが、狂っているのは今の世の中だって同じではないか。

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『競売ナンバー49の叫び』トマス・ピンチョン

『競売ナンバー49の叫び』トマス・ピンチョン

「おいおい、これがミステリー? www」という声が聞こえるような気もするが、無視することにしよう。

作者は現代アメリカ文学を代表する作家にして、決して公の場に姿を現すことのないミステリアスな覆面作家としても有名なトマス・ピンチョン。彼の長編二作目にあたるのが本作だ。

主人公は人妻エディパ・マース。ある日彼女は、急死したかつての恋人、大富豪ピアス・インヴェラリティの遺産管理執行人に指名されたという報せを受け取る。さっそく顧問弁護士の助けを借りながら、ピアスの遺産を調査するエディパ。

彼女は、ピアスが収集していた偽造切手のコレクションについて調べていくうちに、国家が管轄する公的な郵便制度からはずれた、非合法の〈私設郵便組織〉の存在にぶち当たる。

次第にエディパの前には、それまでの彼女には見えていなかった、まったく別のアメリカが姿を現しはじめるのだ

そう、これはある特定の事件の真相を追うミステリー小説ではなく、この世界の謎(ミステリー)を明かさんとする、怪物的な野心と想像力にあふれた小説なのだ。

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『ペリカン文書』ジョン・グリシャム

『ペリカン文書』ジョン・グリシャム

作者は法廷ミステリーの巨匠ジャン・グリシャム。寝食を忘れさせるほど読者をつかんで離さない巧みなストーリーテリングは、アメリカでは〈グリシャム・マジック〉と呼ばれている。私も彼の作品のおかげで、何度も寝不足の朝を迎えたことがある。

スピーディでサスペンスフルな語り口は、本作でも冴えに冴えわたっている。

あらすじはこうだ。アメリカ合衆国最高裁判所の二人の裁判官が、一晩で続けて殺害されるという衝撃的な事件が発生する。

FBIでさえも手を焼くこの難事件に興味を惹かれたのが、ヒロインのダービー。ニューオーリンズの大学で法学を学ぶ、若い美人女子学生だ。

図書館や裁判所に通って独力で調査を続けた彼女は、なんと事件の真相を突きとめてしまう。そして、その調査結果を〈ペリカン文書〉という名のレポートにまとめる。それが災厄のはじまりだった。

ダービーから彼女の大学の教師、FBI、そしてホワイトハウスへと、〈ペリカン文書〉はさまざまな人物の手に渡ってゆく。そのなかに、事件を闇に葬っておきたい組織にかかわる人間がいたのだ。

彼女の命を狙って動き出す闇の組織。ニューオーリンズを離れ、逃げ回るダービー。アメリカ全土を舞台にしたスリリングな逃走劇は、あなたを決して眠らせないだろう。

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『黒いトランク』鮎川哲也

『黒いトランク』鮎川哲也

何度読んでもため息がでる――そんなミステリー小説がある。私にとっては『黒いトランク』がそうだ。読み返すたび、いや、読めば読むほど、そのトリックの巧妙さに感動してしまう。

作者は戦後ミステリー界の巨匠、鮎川哲也。

数々の本格ミステリーの傑作を生み出したが、彼の代表的なスタイルがアリバイ崩し。犯人の用意した鉄壁のアリバイを、探偵役の鬼貫(おにつら)警部が丹念な操作によって崩していくというものだ。

1949年12月、福岡県から東京・汐留駅に異臭を放つ黒いトランクが届く。なかを開けると男の腐乱死体。トランクを発送したとされる人物も、兵庫県の沖合いで死体となって発見された。

鬼貫警部は、かつて想いを寄せていた由美子という女性から、事件の真相を解明してほしいとの依頼を受ける。実はトランクを発送したとされる人物は、若き日に由美子を奪い合った、彼の古い友人だったのだ。

捜査に奔走する鬼貫の前には次々と謎が現れる。死体が入っていたものとまったく同じ、もう一つのトランクの存在。そして容疑者の鉄壁なアリバイ。

その巧緻を極めたアリバイ工作が鮮やかに解かれてゆく快感を、ぜひあなたにも味わってほしい。

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『捜査』スタニスワフ・レム

『捜査』スタニスワフ・レム
画像URL:https://bookmeter.com/books/473541
(Amazonの画像が古いため上記ページよりコピー)

深い霧におおわれたロンドンで、警視庁(スコットランド・ヤード)の捜査官たちが怪事件に挑む!と聞けば、誰もが純真なミステリー小説を想像するだろう。

いや、もちろんミステリーではあるのだが……。

正直に告白しよう。これほど紹介に骨が折れる小説は、あまりない。

事件は起こる。起こるのだが、殺人事件ではない。しかし人は死ぬ。何人も。いや、「死ぬ」よりも「死んでいる」と言ったほうが良いだろう。

そう、つまり死体なのだ。本作で起こる事件とは、死体を保管する霊安室で死体が動いたり、消えたりするという事件なのだ。

だから、ここには激しいアクションや暴力シーンはない。ギャングやマフィアも登場しない。暗闇でナイフの先が妖しく光ることも、銃が火を噴くこともない。

基本的に主人公ら捜査官たちは、なぜ死体が勝手に動いたり消えたりしたのか、ということについて推理を重ねていくだけだ。

ただし、その推理がブッ飛んでいる。一連の死体消失事件の分布とイギリスにおける癌の死亡分布の相関性から、癌と関係のある突然変異ウィルスが死体を動かしているとか、外界からきた人の目に見えないほど小さな知生体の仕業だとか、聖書との関連説だとか……。

アンチ・ミステリー小説? 不条理ミステリー? 

まあこの際、呼び方などどうでも良いではないか。とにかく、「新しいタイプのミステリー小説に出会いたい」という方に、ぜひ読んでもらいたい一冊だ。

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『冬の夜ひとりの旅人が』イタロ・カルヴィーノ

『冬の夜ひとりの旅人が』イタロ・カルヴィーノ

誤解のないように先に言っておこう。この作品も、いわゆるミステリー小説ではない。しかし、そんじょそこらのミステリー小説など比較にならないほど「ミステリアス」な小説なのだ。本作は次のようにはじまる。

「あなたはイタロ・カルヴィーノの新しい小説『冬の夜ひとりの旅人が』を読み始めようとしている」(『冬の夜ひとりの旅人が』)

そう、これは〈私〉や〈彼〉〈彼女〉ではなく、〈あなた〉=読者が主人公の小説なのだ。しかも、というか、さらにユニークなことに、〈あなた〉が『冬の夜ひとりの旅人が』だと思って読んでいる作品は、実は他のまったく別の作品であることが知らされるのだ。

思いもよらぬ事実に〈あなた〉は戸惑う。そんな〈あなた〉の前に、同じく混乱した、もうひとりの読者があらわれる。そして二人は、『冬の夜ひとりの旅人が』の謎を追って冒険に出る――。

作者は、20世紀後半を代表する作家の一人、イタロ・カルヴィーノ。一作ごとに作風を変え、超絶技巧の持ち主としても有名だ。「文学の魔術師」と呼ばれるその驚くべき技巧を堪能してほしい。

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『死の接吻』アイラ・レヴィン

『死の接吻』アイラ・レヴィン

主人公の〈彼〉は頭脳明晰で、生まれながらにして恵まれた容姿をもつ大学生。当然、女子学生にもモテモテだ。……なんとなくいけ好かない。おそらく身近にいたら、イヤミの一つや二つでも言いたくなるような人物だろう。

しかし、ただのイケメン大学生と〈彼〉を分かつものがあった。それは富と地位に対する異常な執着心だ。

そしてその野心が、〈彼〉の人生を狂わせてゆく。

結婚前提で付き合っている恋人は社長令嬢。もちろん財産相続が目的だ。だが彼女は婚約前に妊娠してしまう。厳格な彼女の父親はできちゃった結婚など認めるわけがない。これで自分の夢もご破算だ。だとすれば手段はひとつ…。

魅力はストーリーだけではない。まるで自分の手で殺害を犯しているかのような臨場感あふれる描写。ラストまで途切れることのない緊張感。

章ごとに語り手がかわり、そのたびに読者の予想は覆されてゆく。その卓越したテクニックと構成は、本作執筆時、作者が23歳だったとはとても信じられない。

嫌悪感を抱いたはずの主人公に最後は同情してしまうのも、作者の仕掛けた巧みな罠のひとつなのだろうか。

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『クロイドン発12時30分』F・W・クロフツ

『クロイドン発12時30分』F・W・クロフツ

いわゆる「倒叙ミステリー」の傑作として名高い作品だ。

ご存じない方に説明すると、「倒叙」とは時間をさかのぼって叙述したもの。普通のミステリーとは違い、最初に犯人も犯行の全容も読者に明らかにしたうえで、それがどのように解決されるかを楽しむものと思ってもらえばいい。

物語は、ロンドンとパリを結ぶ飛行機に乗っていた大富豪の老人が、奇怪な死を迎えるところからはじまる。

そこで時間はさかのぼり、犯人の中年男チャールズ・スウィンバーンが、なぜ犯行に踏み切ったのか、どういう手段で殺そうとしたのか、その心理が微に入り細に渡って刻銘に描かれてゆく。

叙述以外での本作のポイントは、なんと言ってもチャールズの人物造形だろう。

彼は、いわゆるミステリーの犯人にありがちな、極悪非道な性格の持ち主でも、悪の帝王といった存在でもない。不器用で小心者――つまり、我々となんら変わらない平凡な人間というわけだ。

奇抜さと意外性に乏しい?――結構。私は見掛け倒しの演出や派手なだけのトリックに興味はない。そんな代物に時間を費やすには、人生は――というのが言い過ぎなら、夜は、でもいい――あまりにも短すぎる。

それよりも、クロフツが描くあまりにも人間臭い心理描写にこそ、真に迫真的ものを感じると言っておこう。 

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『ブラック・ダリア』ジェイムズ・エルロイ

『ブラック・ダリア』ジェイムズ・エルロイ

はじめて読んだのは10年以上も前。以来、書棚の片隅で危険な燐光を放ち続けている作品だ。

軽い気持ちで手に取るのはオススメできない。心臓の弱い方は閲覧注意な作品だ。人によっては劇薬のようなショックを受けるだろう。

1947年、ロスアンゼルス市内の空き地で、若い女性のむごたらしい惨殺死体が発見される。その残虐さときたら……、とてもここでは書けない。

彼女の名前はエリザベス・ショート。ハリウッド女優に憧れて田舎町から出てきたものの、芽が出ず、娼婦まがいの生活を送っていた。事件はたちまちセンセーショナルな話題を呼び、ロス市警は数百名の捜査員を投入して大捜査網を敷く。

そのうちの一人が、主人公ドワイト・ブライチャートだ。元ボクサーの彼は、同じくボクサー出身で姓も似たリー・ブランチャートとパートナーを組み真相解明に奔走する。

捜査は難航を極める。虚言を弄する容疑者。跳梁跋扈するギャング。出世のために、自分に都合の悪い事実を平気でもみ消す同僚の警官たち。

嘘、裏切り、むきだしの人種差別、暴力衝動、歪んだ性欲……。

作者のジェイムズ・エルロイは、人間のダークサイトをこれでもかとばかりに描き出してゆく。おびただしい量の血が流れる凄惨な暴力シーンの数々は、思い出すだけで口の中に血の味がひろがってくるようだ。

35口径ライフルを片手に、邪魔するものは同僚だろうが法律だろうがすべて蹴散らしながら、事件の核心に迫ってゆくブライチャート。次第に明らかになる、殺されたエリザベス・ショートの孤独と悲哀。

救いのなさが、心臓をとらえて離さない。

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『さむけ』ロス・マクドナルド

『さむけ』ロス・マクドナルド

かつて村上春樹は、エッセイでこのように書いていた。

「僕はロス・マクドナルドのリュー・アーチャーものはみんな尻尾の先まで好きだ。」(『象工場のハッピー・エンド』)

私立探偵リュウ・アーチャー。ダシール・ハメットのサム・スペード、レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウらとともに、ハードボイルド小説主人公の御三家とも呼ばれる男。

そんな彼が登場するシリーズのなかで、最高傑作の呼び声が高いのがこの作品だ。

ある日アーチャーはアレックスと名乗る青年から、新婚旅行中に姿を消した妻ドリーを探してほしいという依頼を受ける。

なんなくドリーの居場所を突き止めたアーチャーだったが、しかしそれだけでは終わらなかった。彼女の失踪には、ある複雑な背景があったのだ。

「世界は複雑です。その世界の中で、いちばん複雑なものが人間の心です」(『さむけ』)

赤の他人同士だと思われていた人物たちの裏に隠された深い因縁。次第に浮かび上がってくる過去の殺人事件。その謎を、絡み合った糸をほどくように解き明かしてゆくリュウ・アーチャー。そして――

あの、唖然とせずにはいられない衝撃的なラストシーン。思い出すだけで鳥肌が立ってくる。

もう一度、村上春樹の言葉を借りよう。

「登場人物はみんな暗い帽子をかぶったみたいなかんじで、それぞれに不幸への道をたどりつづける。誰も幸せにはなれない。でも、それでも人は歩きつづけるし、そうしなければならぬのだとロス・マクドナルドは叫びつづけているように見える」(『像工場のハッピーエンド』)

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以上、15冊のミステリー小説を紹介してきた。

それぞれの紹介文にも書いたが、あえて挑発的にブッ込んでみた作品もある。ぜひあなたの感想を聞かせてほしい。

また、「次はこんなジャンルでやってほしい」という意見ももらえると嬉しい。これからも私は、古今東西問わず、さまざまな小説を読んでゆくつもりだ。

なぜなら――ここでレイモンド・チャンドラー『長いお別れの』の名高い文章をもじるのを許してほしい――、女性とは何度も別れても、「小説にさよならをいう方法はいまだに発明されていない」からだ。

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Career Rules編集部

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