転職する場合、気になるのは有給についての扱い方だろう。
退職日までに有給をうまく消化したい…と思うのは、誰しも同じではないだろうか?
転職することに対しての罪悪感や恩義、企業側からの圧力によって有休を消化しにくい、もしくはできないと思っている人も多いかもしれない。
だからといって、有給を残して退職する必要はない。
実は退職までに有給を消化できなかった人がいる一方で、すべて消化している人も約半数いるのが現実なのだ。
今回は、転職時に有給をうまく消化する方法を具体的に解説していく。
有給を消化したい場合に起こりうるトラブル防止対策も含め、ベストな転職をするための有効な有給消化方法を見つけておこう。
目次
転職時に有給は使いきって問題なし!法的な仕組みを解説
転職時に有給を使い切ることは法的に問題はなく、心配する必要はない。
そもそも労働基準法では、年次有給休暇が付与される要件について以下の条件が定められている。
- 前年度労働日の8割以上出勤している
- 雇い入れ日から6か月以上継続して雇用されている
所定労働日数や週の勤務時間などにより付与日数は異なるが、有給とは要件を満たした労働者に与えられるものだ。
また有給は発生した日から2年間で消滅してしまうものの、1年以内で使いきれず残ってしまった有給は、翌年度への繰り越しが可能である。
2年分で換算すれば、勤続年数によっては1年間で最大40日の有給を保有することができるのだ。
転職時にこれらの有給を使い切ることは可能であり、法的にも何ら問題はない。
この裏付けとして労働基準法第39条第4項において、以下のように定められている。
使用者は、前3項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。
ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、
他の時季にこれを与えることができる。
引用:労働基準法
これは「時季変更権」と呼ばれるもので、例えば多数の労働者が同じ日に有給申請した場合など、状況によっては企業側に有給日を変更できる権利があるのだ。
ただしあくまでも「有給日を変更」できるということであり、企業側が「有給を取ってはいけない」とはいえないのがポイントである。
つまり、退職時において有給消化を拒否する権利は企業側にはなく、拒否した場合は法に違反することになるのだ。
労働基準法附則(抄)136条では、有給を取得した労働者に対して、賃金の減額など不利益な取り扱いをしてはいけないことも定められている。
退職が決まっているから有給が使えないわけではない。労働者としての権利なのだから、きちんと申請し、自信を持ってすべて有給を消化するべきだ。
やり方を間違えるとトラブルの元!有給消化における3つのトラブル事例
転職にあたって、有給を消化することは間違ってはいない。
ただし職場によっては「有給をとりにくい」空気のところも存在するのが事実。
有給を消化する方法を間違えてしまうと、大きなトラブルを招く要因になる。
「立つ鳥跡を濁さず」という言葉もあるように、できる限りスムーズに退職して気持ちよく次の転職先で仕事をスタートしたいものだ。
ここで、有給消化についてよく耳にするトラブル事例を3つご紹介する。
以下の事例を参考にし、自分自身もトラブルに巻き込まれることのないように最後までしっかりと読み進めてみてほしい。
事例1.有給消化しようとしても会社側が受け入れてくれない
特に日系企業に勤める人の悩みにありがちなのが、日常的に「有給が取得しにくい」という問題だ。
現職中も仕事が忙しいなどの理由で有休が取りづらく、最終的に退職するまでにほとんどの有給を残して退職する人も少なくない。
そのため、退職時にかなりの日数の有給が残っている人も多いのだ。
この場合企業側が日常業務の遂行を優先し、退職時の有給消化を暗黙で認めない可能性も出てくる。
労働基準法によれば、先述したように有給取得は労働者の権利であって企業側が拒否することはできない。
状況によれば、時季変更権を行使して有給を取得する日時を変更することはできる。
ただし、時季変更権は単純に「業務多忙だから」という理由だけで行使はできないことが、下記資料にも明記されている。
有給の取得は法的にも認められているものであり、万が一有給が取得できないような状況になれば、企業の考え方に問題がある。
例えば所属長が認めてくれないのであれば人事部へ相談し、それでも変わらないようであれば労働基準監督署へ相談することもひとつの手である。
事例2.有給消化期間とボーナス支給日が重なったためボーナスが減額された
ボーナス時期の前後に転職する人も少なくないだろう。
この場合、ボーナス支給日に有給を消化しているパターンも考えられる。
企業によっては、ボーナスが支給されても減額された、ボーナスが支給されなかったなどのトラブルが起きる可能性もあることを肝に銘じておこう。
有給を消化していても在籍しているからといって、必ずしもボーナスが支給されるとは限らないのだ。これは、企業の就業規則によって対応が異なることが関係している。
例えば、ボーナス支給対象者として「支給日に在籍している従業員」となっていれば支給されるはずだ。
また、ボーナスの査定期間も注目すべきポイントである。
例えば7月・12月の年2回ボーナス支給があった場合、それぞれの査定期間は10月~3月・4月~9月となるのが一般的であり、査定期間の実績に対してボーナスが支給されることになる。
査定期間を考慮すれば、厳密には満額支給されてもおかしくない。
しかし、ボーナス支給日に実際には勤務していないため、減額される可能性はあると想定しておこう。
事例3.引継ぎ期間が少なくうまく引継ぎが終わらなかったため退職金が減額された
有給は労働基準法に基づいた労働者の権利である一方、退職金やボーナスには法的な規則はない。
あくまでも企業が任意で付与する賃金であり、企業側に大きな裁量権がある。
なかには引継ぎなどある一定のルールを守らなかった場合、退職金の減額について退職金規定に定められている企業もある。
もしも引継ぎ業務が不完全であった場合、退職金を減額される恐れもあることを頭に入れておきたい。
こうした状況を踏まえ、企業側も自社への不利益を理由に退職金の減額措置をとるパターンがある。
退職する際に退職金が減額されているなんてことがないように、事前に就業先の就業規則や各種規定についてリサーチしておくことをおすすめする。
いくら有給をすべて消化したいとはいえ、引継ぎ業務を怠って退職先企業に不利益を生じさせてはいけない。
転職時、確実に有給消化するための実践ステップ
転職時に確実に有給を消化し、気持ちよく退職したいなら事前の準備は欠かせない。
ここで、具体的にどんなステップを踏んでいくといいのか解説していく。
一つひとつ確実にクリアしていくことで、確実に有給を消化できる態勢にしておこう。
STEP1. 有給残日数の確認
転職を考えはじめると、転職先の条件や収入面など、次の仕事にばかり目が向いてしまうかもしれない。
確実に有給を消化して転職したいなら、現在の有給がどれくらい残っているか確認しておこう。
それぞれの企業によって異なるだろうが、毎年有給日数のお知らせがあったりオンラインで随時確認できたりする場合がある。
わからなければ人事部へ確認することもいいだろう。
通常であれば有給が取得しにくい日程の場合、時季変更権を使って別の日に有給を取得することも可能だ。
しかし、退職の場合は在籍している期間に限りがあるため、時季変更権は使えない恐れがある。
有給の残日数によって、退職日や仕事の引継ぎにも影響が出てくるため、まずは有給日数を明確に把握しておくことだ。
STEP2. 転職先の決定と入社日の交渉
有給残日数を把握しつつ、転職活動を進めていこう。
自分自身が望む転職先への採用が決まれば、入社日についての話し合いになるだろう。
結論から言えば、有給残日数+現職での退職相談→引継ぎ→実退職までの日数を加味した期間に多少の余裕を持たせて入社日を交渉できるようにしたい。
有給残日数や現在の仕事内容・ポジションにもよるが、入社日までに2~3ヵ月の猶予をもらえるといいだろう。
転職の場合、企業側ができるだけ早いタイミングで入社してほしいと考えている場合が多い。なぜなら即戦力で働いてもらいたい意向が強いためだ。
即日入社を希望している企業もあるが、数カ月後、半年後など状況によっては交渉の余地もある。
入社日の交渉は、まずは採用時にある程度交渉するとして、現職に退職する旨を伝えた後でも調整できるか相談しておくのもいい。
企業にとって優秀で欲しい人材であれば、あなたが主導権を握って交渉できる可能性も高い。
STEP3. 現職の所属長へ退職の意向を伝える
退職したい気持ちが強いと、転職先を決めることなく先に退職希望を出してしまう人もいるかもしれない。
極力離職期間を作りたくないのであれば、転職先を決めてから現在の職場へ退職の意思を伝えることをおすすめする。
現在の職場に転職先が決まっていないことがわかれば、退職の意思も弱いと判断されてしまうかもしれない。
結果的にズルズルと退職できず、そのまま流されて仕事を続けるはめになってしまう恐れもあるのだ。
そのため、どれくらいの時期に次の職場へ転職する予定かを踏まえたうえで退職の意思、退職日の交渉をしよう。
この場合、有給残日数と有給消化期間、引継ぎ期間も含めている旨を伝えておく。
これで退職の意思が強いことが相手にも伝わりやすく、よりスムーズに退職できる可能性を高める。
仮に、退職の意志を明確に伝えているのに拒否・無視されたり、有給の取得をさせてくれない場合は、退職代行サービスの利用も検討しよう。
費用は数万円かかるが、法的知識をもとに着実に退職を進められ、有給消化の交渉も代行できる。
サービスを選ぶ際は、弁護士か労働組合が運営する会社を選ぼう。
こちらの記事におすすめのサービスをまとめているので、興味があれば読んでみてほしい。
STEP4. 退職日の決定と引継ぎ業務
退職日が確定したら、引継ぎ業務だ。自分の仕事を引き継いでくれる相手の状況、有給の消化方法を考えながらスムーズに引継ぎを済ませたい。
有給の消化方法としては、主に以下の3つの方法がある。
有給の消化方法:3つの方法
- 何日間か、もしくは1日ずつなど、状況に応じて退職日までにすべての有給を消化する
- 退職日から逆算し、まとめて有給をすべて消化できるように引継ぎを済ませ、退職日に出社して退職する
- 引継ぎなど事実上の各種業務はすべて終え、その後有休をすべて消化した最終日を退職日とする
退職日が先に決まっているのであれば、逆算して引継ぎが確実に終わるように調整する必要がある。
退職日に挨拶を兼ねて出社するのであれば、それも踏まえて有給を消化しておこう。
ただし、引継ぎ相手の決定や退職日の決定によっては、思っていたようにいかない可能性もある。
転職先が多少入社日を調整できる状況であれば、完全に有給消化できるよう退職日・入社日を調整してもいいだろう。
ただし、あまり引き伸ばしすぎるのも好印象は持たれないため、転職を考えはじめた時点でこまめに有給を取得しておくといい。
退職時点で有給残日数が少ない方が、確実に有給消化できる可能性も高まる。
STEP5.退職→転職先へ入社
退職後に間を置かずに転職先へ入社する人もいるだろうが、この場合、退職時に引継ぎ相手にその旨伝えておく方がいい。
引継ぎは完璧に終えられる人はいないといっても過言ではない。
退職後に引継ぎ相手から確認・連絡があることも少なくないのである。
新しい仕事に就いている最中に前職からの連絡が頻繁にあれば、転職先にもあまりいい印象は抱かれないはずだ。
引継ぎ相手も悪気があるわけではなかろうが、連絡されてもすぐに対応できない旨を伝えておくことで双方ともに気を引き締めて業務にあたることができる。
有給消化の疑問を解決!よくあるQ&A
転職時には、有給はもちろんのこと各種保険など基本的に守るべき法的な決まりがある。
ここで、先述したトラブル事例とは別に、よく耳にする疑問についてご紹介していこう。
転職する前にあらかじめ知識を備えておくことで、転職に関して余計な悩みが増えるのを未然に防ぐことにもなる。
有給消化中に、次の職場で働きはじめても良いのか?
そもそも有給消化中は、働いていなくとも給与が発生している状態だ。
企業に在職しているのと同じ扱いであり、つまりは退職していないことになる。
次の職場で働きはじめるのは法的には問題はなくとも、大きく2つの問題が考えられる。
まず1つに、現職・転職先双方の就業規則によっては二重就労という問題が発生する可能性があるのだ。
現在では副業を認めている企業も増えているが、まだ発展途上ともいえるため、就業規則を確認しておくべきだ。
有給を取得している期間は、あくまでも現職における従業員としての扱いであり、もちろん就業規則も守るべき立場である。
また転職先でも、二重就労を禁止しているなかで前職に在籍していることが分かれば解雇される恐れもあるのだ。
次に、雇用保険の問題だ。
雇用保険とは失業給付や教育訓練給付・雇用継続給付など、生活や雇用の安定・促進のための公的な保険制度である。
雇用保険には1人で二重加入することはできないことがポイントだ。
有給を消化している間は在籍している状況であるため、雇用保険ももちろん加入した状況になる。
一方で、転職先で入社する場合、各種社会保険に加入することになる。雇用保険も入社日に合わせて加入手続きをするのが一般的だ。
ここで二重加入というトラブルが発生する。
このパターンでは、以下の2つが解決方法として想定される。
二重加入を防止する解決方法
- 退職日よりも前に雇用保険の喪失手続きをしてもらう
- 転職先に相談し、二重就労が禁止でなければ試用期間として雇用保険未加入状態で働きはじめる
多くの場合、前者は退職日の兼ね合いもあって現実的ではない。後者については、退職先の就業規則に違反していないかを確認しておく必要がある。
さまざまなリスクを考えるならば、筆者としてはきれいに退職してから転職先に入社することをおすすめしたい。
有給消化時の社会保険料支払先はどこなのか?
有給消化時は、在籍している状態であるため、社会保険についてももちろん加入している状態である。
先述したように、雇用保険については二重加入ができない。
ただし、労災保険・健康保険・厚生年金については二重加入できるので、その具体的内容について解説しよう。
まず労災保険とは、労働者が業務上・通勤中などの事故によって負傷・死亡した場合に必要な保険給付を行うものである。
そもそも労災保険は企業が保険料を支払っているのであり、労働者一人一人が加入するものではない。
入社に伴う加入手続きや退職による喪失手続きもない。そのため、二重加入となっても問題はなく労働者側に何らかの支障をきたすことはないのだ。
一方で健康保険・厚生年金の保険料にも影響が出てくるのがポイントだ。
健康保険・厚生年金は資格喪失日が退職日の翌日となり、退職日は終日保険証が適用される。
また、保険料は日割り計算ではなく末日に加入しているところに支払う。
例えば3月30日に退職し、31日に転職先へ入社したとする。この場合、31日に加入した転職先へ保険料を支払うことになる。
万が一31日に退職し、31日に転職先へ入社したとする手続きをとるとする。
そうなると、雇用保険の二重加入になってしまうのはもちろんだが、健康保険・厚生年金も二重加入となり、両方の企業で保険料を支払うことになってしまう。
法的に健康保険・厚生年金の二重加入は問題ないとはいえ、末日在籍によって二重に徴収される恐れもある点に注意しておこう。
有給の買い取りは可能なのか?
職場の状況によっては、有給を取得したくてもできないような人員配置になっていることも想定される。
この場合、有給を企業に買い取ってもらうことができれば損をすることはないと考える人も多い。
しかし、そもそも有給とは「労働者の心身を休ませて疲労回復させる」ために付与されるものだ。
本来の主旨から外れて金銭で売買することは、原則的に法律違反である。
ただし、例外的に有給の買い取りが認められているパターンが3つある。
有給の買い取りが例外的に認められているパターン
- 労働基準法で定められた日数以上の有給が付与されている場合、その超えた有給日数分の買い取り
- 2年間で使い切れず消滅してしまう有給日数分の買い取り
- 退職者の未消化有給分の買い取り
上記のパターンはあくまでも「認められている」のであり、企業側に法的な「義務」はない点がポイントだ。
もしも現状では有給を消化することが難しいようであれば、上記のような例外について就業規則で規定を設けている企業もあるのでチェックしてみるといい。
就業規則にはないものの過去の事例で認めている場合もあるため、企業側に退職時の有給買い取りについて相談してみるのもいいだろう。
有給の買い取り額は計算方法がさまざまだが、有給残日数によっては数十万円近い金額になる可能性もある。
労働者として使用する権利がある有給なのだから、泣き寝入りすることなく有給を消化できるようにしたい。
まとめ
転職における有給消化の注意点・取得方法についてはお伝えした通りだ。
冒頭でお話しした通り、有給の消化は正当な権利だ。
本記事のステップを参考にぜひすっきりと有休を取得して転職しよう。
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