転職市場は、ここ10年間でも大きく様変わりしている。新卒採用時に、売り手市場・買い手市場の変化の煽りを受けた人も多いだろう。
それだけではなく、業界・職種レベルで転職市場のあり方は変化し続けている。
- 現在の転職市場はどうなっているのか?
- 自分は転職すべきなのか?成功できるのか?
と悩みを抱えているビジネスマンは少なくないはずだ。
そこで今回は、企業の経営コンサルティングから転職支援まで幅広い経験値を持つ「経営者JP」の井上 和幸 代表取締役社長に「今後の転職市場」「転職で成功する人・失敗する人」について徹底的に語ってもらった。
経営者としてだけではなく、多くの転職者を支援してきた立場からの視点は必見だ。
今回のインタビューは2回に分けて掲載する予定で、後編は転職市場に長く関わってきた井上氏が語る「転職業界の変遷・裏話」になる。
そちらも楽しみにしていてほしい。
井上 和幸氏(株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO)の経歴
株式会社 経営者JP
代表取締役社長・CEO
兼 KEIEISHA JP ASIA PTE. LTD CEO
「KEIEISHA TERRACE」編集長
経営者JP総研 所長
1966年、群馬県生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、リクルートに入社。
人材開発部等を経て、2000年に人材コンサルティング会社に転職し、取締役に就任。
リクルートエグゼクティブエージェントにてマネージングディレクターを歴任後、
2010年に「志高き経営トップ・リーダー達が、集い、学び、執行する最高の場」を提供するために経営者JPを設立(開業:2010年4月1日)。
同社の代表取締役・CEOに就任する。自身も2万人を超える経営者・経営幹部と対面してきた実績・実例から、
企業の経営組織コンサルティング・経営人材採用支援・転職支援・経営人材育成プログラムを提供している。
井上氏のブログ「経営者マインドを科学する!」
著書(代表著作)
- ずるいマネジメント(SBクリエイティブ)
- 社長になる人の条件(日本実業出版社)
- 係長・主任のルール(明日香出版)
取材・コメント・出演実績
- 日本経済新聞
- 朝日新聞
- 読売新聞
- 産経新聞
- 日刊工業新聞
- 週刊東洋経済
- 日経ビジネス
- GQ JAPAN
- 週刊現代
- プレジデント
- その他多数
目次
これから転職先(業界・職種)を選ぶおすすめの基準
ー編集部
AIなどの登場により、○年先も生き残る職種、生き残らない職種のような議論が世間で交わされるようになっていますね。
業界についても同様で、例えば40~50年ほど前は造船業が活発でしたが、今は以前ほどの勢いはありません。
今まで転職市場で活躍されてきた経験から、またこれからの時代に活きる職種・業界の選び方を教えてください。
ー井上氏
まずは前提として、職種・業界には当然流行り廃りはありますよね。今ある市場が将来的に安泰とは限りませんから、ちゃんと予測はしておくべきなのは間違いない。
しかしそれでも、やはり「自分が好きなところ」を選ぶのが一番だと思います。
例えば(今ガラケー開発をしたい人は少ないはずですが)ガラケー市場が最盛期に「ケータイの開発がしたい」という人がいたとします。それで転職したとしても、スマホの台頭によって10年持たなかったわけです。
それはほとんどの人が具体的には予測できていませんでしたよね。
自分の好き・関心をベースに業界・職種の「抽象度を上げておく」のが良い
ー井上氏
もちろん、ガラケー開発の経験をもってスマホ関連の職種につくことはできるでしょうが、スマホもスマホで5年後も同じ市場とは限りません。デバイスのトレンドは大きく変わっているでしょう。
だから自分が好きなところ・得意なところの中でも「抽象度を上げておく」方が良いですね。
例えば「ガラケー、スマホという括りではなく通信業界」という括りにした方が、時代の変化に適応していきやすい。
ただ上記のように志望の抽象度を上げたとき、その中での自分の譲れない部分、グリップはあったほうがいいと思います。
時代とともに業界の衰退・躍進という変化はつきもの
ー井上氏
例えば、私が平成元年に新卒でリクルートに入社した時には紙媒体の情報誌がまだ主流でした。
製紙会社とのお付き合いも多かったわけですが、新人時代に研修の一環である大手製紙会社の富士の工場に見学に行った際、象徴的に感じたエピソードがあります。
工場長が出てきてくださって、20代前半の若手社員に色々と説明してくれるわけです。その工場長は東大出身の方でその当時で50歳くらいでいらっしゃったかと思いますが、以下のようなお話をされたんです。
「井上さんのいる業界(情報産業)って、いまとても伸びている業界ですよね。僕も30年前にこの製紙会社に入った時は、紙や繊維や造船がトップランクだからと思ってこの会社に入ったのです。でも時代は変わるものです…。」
平成初期の頃、既に製紙業界や繊維業界など重厚長大企業は斜陽産業化しつつあり、サービスや金融業が急成長していたのです。もう30年近く前になりますが、今でも鮮烈に覚えています。
本質的に、自分の「旬」はいつなのかを決めておく
ー井上氏
またもうひとつ、私がリクルートに入社するきっかけとなった、当時採用部門で活躍しており入社後には上司としてもお世話になった、現在リンクアンドモチベーション会長の小笹さんから、僕の就活中に言われた印象的な話があります。
私に、入社したい会社を聞く際に「今ピークの会社と、20年後・30年後にピークの会社と、どちらに入りたい?」と尋ねるんです。
上記の通り、私が就職活動中の30年前といえば、既に重厚長大企業が斜陽化しており、それに代わって金融や広告業界などが伸びている。
その当時にトップであり人気企業であった証券会社や広告代理店などは、その30年前、1960年代初頭の高度経済成長期に入った頃、重厚長大企業群が花形だった時期には「株屋」「広告屋」などと揶揄され、どちらかといえば変わった奴が行く就職先だった。
「でも今(=1980年代後半)はそういう会社に行った人たちこそが、気が付けば成長業界に身を置き、活躍してトップランナーになっている。だから君が選ぶべきは、いまピークの業界や会社ではなく、自分が活躍世代(=40代、50代)となる20年後、30年後に主流となっている可能性を感じる業界や企業を選択したほうがいいんじゃないか」。
このメッセージがとても印象に残っています。ある意味、当時の“まだこれからの会社”であったリクルートを選択させる口説きトークでもあった訳ですが(笑)。
こういった発想は若手の人にこそ大事で、10年後20年後30年後をイメージしてみることで、視野が広がるケースもあると思います。
最初に話したように、若いうちは今興味があること、好きなことにフォーカスすることも大事なのと同時に「自分のビジネスマンとしての旬」はいつなのか?問いかけてみると良いですね。
ー編集部
その上で、今井上さんが注目している業界はありますか?
インフラ化が見込めるのはIoTや自動運転
ー井上氏
例えばIoTに関連するものや自動運転などがこれから10年内に相当な社会インフラになる確率は非常に高いでしょうから、そこに自分が興味を持てることや得意なことがあるなら、チャレンジするのは良いと思います。
また食品やサービス業も、どんな時代や環境になったとしても「絶対必要なもの」として残っていくものだと思います。
私自身、いろいろな業種業態の方とお付き合いしていますが、たとえば、顧客が美味しいといって素直に喜んでくれる食品やサービスを提供することって、いつになっても社会から求められるものですよね。
ITのように景気が良いときに爆発的に成長することはなくても、リーマンショックのような景気悪化が起こった時に落ちにくい。
だから、景気の変動にあたふた左右されずに済むという利点があります。
もし自身のキャリアを数十年単位で考えていて、腰を据えてじっくりやりたい方であれば、食品業界やサービス業界はおすすめですね。
ー編集部
ホテルもそうですね。どれだけオペレーションが自動化されるとは言っても、なくなりはしないと思います。やはりホスピタリティーの働くところは、最終的に人間が入るしかないのかなと。
ー井上氏
なくなりはしないでしょうね。マネジメントが出来る方で現場志向がある人だったら、とても良いと思います。
それに、自動化に伴って新しい技術が入ってくることで色々とイノベーションもあるでしょうから、面白い気もしますけどね。
もちろん、縮小したり、なくなるサービス業も色々とあると思います。
例えば清掃員は正直なくなるんじゃないかな。コンビニの店員も、私たちが日常的に接するものだけど、基本なくなる方向に進んでいくと思うんです。
このまま進めば5年ぐらいでなくなるんではないかな。正確には店長さん1人がお店に立っていて、あとは顧客がセルフレジというイメージがありますね。清掃業なども違和感なく清掃ロボットがあちらこちらで清掃して回っているようになると思います。
反対にホテルのフロントなど、ラグジュアリーな要素を持つサービスはより洗練されて残っていくでしょうね。
未来ばっかり見ていても駄目だけど、頭の片隅に10年後とか20年後のイメージを持っておくのは大事だと思います。
活躍するリーダーの人は「僕その頃にはもう何歳だ」とか歳をとった人生を後ろ向きに黄昏て考えるのではなくて、もっと明るいイメージで「こういう産業が伸びるのかな」「こんなことが起きるかもしれないな、そこでこんなことができそうだ」みたいなことを常に考えていますね。
日本の転職へのハードルは、海外のように下がるのか
ー編集部
日本の転職人口もだんだんと増えてきたと思います。
海外は終身雇用の概念が薄く、キャリアアップで転職すると言われていますが、日本でもそういう時代は来るでしょうか?
ー井上氏
「日本の転職は海外のようにハードルが下がるのか?」という質問の答えは「YES」だと思います。
というより、基本的にはほぼそうなっていますね。
ー編集部
ー海外のビジネスマンは、転職活動をしていることも、結構同僚に話しているとも聞きますが、日本ではまだそういう傾向はないですよね。
ー井上氏
それは文化の違いでしょうね。ただ、それでも人材の流動化は進む。
私は、その流動化も積極的な意味で捉えています。その時に自分がよりバリューを発揮できるところを望む風土が、どんどん広がっていくということなんですね。
とはいえ個人の心情として、いつも働きながら「次、どこ行く?」と考えているのもなんだか不自然ですよね。
例えば僕は社長だから、自社のメンバーがそういう話をしながら働いているのは嫌だ、という気持ちがないわけではないですが、それよりももっと問題なのは「今やっていることに徹底的に向き合っていない」ことですよね。そういう人は、いざ転職といってもバリューが出せない。
片手間という訳じゃなくても、いつも横目で他のことを考えているような人は、今の仕事でもそんなにバリュー出せないだろうっていう意味合いなんですけどね。
これもリンクアンドモチベーションの小笹さんがリクルートの採用責任者だった頃から話していたことですが、「リリースモデル」と「バインディングモデル」という考え方があります。
日本はどちらかというと「バインディングモデル」で、要するに、まず社員を会社や組織に押し込めようとする。
分かりやすく乱暴に言ってしまうと「出て行くな」とか「終身雇用だ」「定年まで働いたら退職金をいっぱいあげるから、それまで我慢しろ」というのがバインディングモデル。
会社のために我慢して居続けてくれという力学で、働くテーマや内容について必ずしも本人が望むものを与えていない、それは会社のためだから仕方がないだろう、という前提があります。
ただ、やっぱり今は自由な時代ですから、「リリースモデル」で考えたいよねと、いまから思えば30年近く前にリクルートでは既に話していました。押し込めるのではなく、個々人が自分自身のやりたいことやテーマを持っている。それがいまの会社、組織で実現できるから、いまここにいる。結果としてそれが続く限り、この会社で頑張り続ける、と。
リクルートという会社は、私が知っているのは30年前からですが、それ以前、おそらく1965年の創業からさほど経たない頃からそういった考え方をし、そういったメッセージを発信していて。だから「頑張った上で、卒業してOK」な風土が当初からあったんだと思います。
また逆説的ですが、リリースモデルだからこそ、「いつ出ていってもいいのに、い続ける」という現象が起こるんです。
何故かというと、やっぱり仕事、今ここにいる皆でやる仕事が面白いから、やりがいがあるから、成長できるから。だからいつ出てってもいいはずなのに「いや、僕はここにいます」というのが、やっぱり理想だよねと。
小笹さんは、そういう部分にモチベーションが重要なトリガーになるということで、リンクアンドモチベーションという会社を創られたと思います。
僕もその当時からそう思っていて、今でもその想いは変わりません。
どの業種・業態であっても、ちゃんとやりがいがあるテーマがあって、社員がそれにコミットして力を発揮してくれることで事業の価値が上がっていく。その結果、社員個々人の役割であったり報酬であったり、次のチャンスが与えられる。そういったサイクルで社員の成長・キャリアも事業も回っていくのがすごくハッピーですよね。
一方では、そのサイクルが自分にとって適切じゃなくなる時も来ると思います。
ある時までは自分と会社が同じサイクルに乗っていたけど、これから先は自分は別のベクトルに舵を切り替えたほうが良いと感じる。一方で会社はこっちに行くよという方向性の、そのお互いのベクトルが分かれるのであれば、私は前向きな意味で全然、辞めてもいいと思うんですよ。
このパターンでの退職をリクルートは「卒業」と呼んでいる、と僕は理解し、僕なりに「卒業」という言葉を使ってきています。
「もう辞めたやつ」のような扱いではなく、中も外も仲が良い雰囲気が世代を越えてもあるのは、そういった共通の価値観がしっかりしてるからです。
日本全体がそんな風になったらいいなと思いますね。
文明が発達すると「自由に選べるようになっていく」
ー井上氏
このテーマは統計データ的にも面白いことがあって、社会が発展・成熟すると2つ増えることがあるんですね。
それは転職と離婚。実際にいま日本もそうですが、離婚率は先進国になるとやはり一気に上がるんです。だからアジア圏で離婚率が上がってきてたら、同時にGDPの指標などが上がってきてるはずなんですね。豊かになると、要するに我慢しなくてよくなるんですよ。
決して離婚を推奨するわけではないですが、良し悪しは置いておいて、昔だったら結婚生活の中で、「あれ?違うな…」とか、どちらかが思い始めたとしても、親戚の目もある、友人や会社の人たちの目もあるで、「まあしょうがないな…」と思うしかないものだった。
それが今であれば「辛いんだったら、パートナーも選び直せば良い」という価値観が一般化していると思います。
ー編集部
選択肢を選べるようになってきたってことですよね。
ー井上氏
そうです。お互いにより良い状態を求めていって、その機会が提供されていくことが、豊かになることの一つの側面です。
統計データを見ていても顕著だから面白いですよ。
現在、GDPが一番高いのは北欧のエリアなんですが、転職率・離婚率が70%前後にまで達しています。転職しなかったり離婚しない人のほうが逆に珍しい扱いをされる、ということですよね。
一方で、経営者の立場で考えたら、どんどん難しくなっていると言えるとも思うんですね。昔だったら我慢して働いてくれたのに、我慢してくれない事でもありますから。
その分、経営者が努力して魅力を高めようとするのが健全
ー井上氏
だから経営者がその分、会社の魅力を高めるために努力する必要性が高まっています。
それを後押ししているものとして、やはり1990年代後半から社会がネット化してきたことが大きい。インターネットが出てきてから何かあればすぐオープンになり広まってしまう、だから「社内に向けてもヘタなことができなくなっている」という流れは、私自身は非常に良いことだと思っています。
自浄作用がきちんと働いている事になるので……もちろん、炎上騒動の行き過ぎも一方で感じますけど。
昨今スポーツ各界でのいわゆる「ドン」と呼ばれる人たちがいて問題となっている騒動は、先ほども言った「バインディングモデル」の中で、何かの既得権益を得るという構造に通じており、それが閉じ込め続けることができなくなっていてあちらこちらで噴出、明るみに出てきているのです。
昔は皆おかしいと思っていても我慢していたことが、どんどん外に出てきてしまうから、こうした浄化作用で、旧体質の業界構造などはどんどん駆逐されていくでしょうね。
「配偶者の反応」に見る、転職の成功・失敗
ー編集部
そうやって、転職の自由度が上がっていくと「転職の成功・失敗」に対する考え方も変わってきそうですね。
ー井上氏
転職で成功した、失敗したというのは、先ほど話したように「本人がやりたいことができる・興味が持てる」なら成功と言えるんではないでしょうか。
本人がやりたい仕事でやりがいが持てて、貢献感・成長感が持てる場にいるなら、その転職なり仕事ってすごく良い状態だし、転職は成功したと思えますよね。
逆に他人から見て、あの人良いポジションだな、年収いっぱいもらっているなとか思われていても、本人が貢献感・成長感を持ててなかったら、本人にとっては失敗なんです。
やっぱり自分軸で見たときに、どういう満足が得られているかで判断することが大事です。
私たち日本人は受験戦争の中で育ってきていますから、自分軸というよりは他人軸で見るというか、偏差値的なものの見方、画一的なひとつの基準だけで「世の中的にいい会社と言われているか」「親類縁者から見てこの会社に入社し所属していることがステータスになるか」というようなことで判断しがちなんですよね。
転職で良く言われる「嫁ブロック」は、そのあたりも背景にありますね。
「お父さん、何で名のある大手企業から出て、そんなわけのわからない無名なベンチャー会社に行くの?」みたいに(笑)。
本人からしたら「大手の中で歯車になって窮屈な思いをしながらやりがいない仕事をしているより、ベンチャーで自立した責任感ある仕事がしたい」という思いなんだけど、それが伝わらない。
奥さんからしたら「いませっかくみんなが知ってる〇〇会社の課長なのに、次の会社の名前なんてアタシ聞いたことない、大丈夫なの?」と捉えてしまいます。
ただ結局「家族が幸せになる」って、収入や企業の安定性だけでは測れなくて、旦那さんが活き活きと働けて結果を出していることもカウントされると思うんです。
だとすると、本当はその「嫁ブロック」が自分の家庭を衰退させている可能性もある。
ー編集部
確かにそうですね。誰かを幸せにするのって、多分、自分が幸せにまずならないとできないと思うんですよね。
ー井上氏
そうですね。だから私たちがぐっと来るエピソードに共通する一つが「家族の応援」なんです。
極端な話、大手に勤めていて経歴も充分な方が結構リスクのあるチャレンジを選ぶことがあります。
その際に「さすがに奥様やご家族は大丈夫ですか?不安に思っていらっしゃるのでは?」と訊くと、「でもうちの妻は、新しい仕事のことを話しているあなたの方が活き活きしているから、と言ってくれるんです」と。
やっぱり心に残りますし、そういう人は結果としてその後ご活躍され、転職に成功していますね。
今後、こういう人材の市場価値は上がるという人のタイプを教えてください。
ー編集部
「今後、こういう人材の市場価値は上がる」という考え方を伺いたいです。例えば、今後も活きてくるスキルや能力、性格などを教えてください。
ー井上氏
そうですね、まず20代であれば、「つべこべ言わずにガンガンやる人」が、その後に向けて、よりバリューは上がります。
これは変に我慢しようと言っているわけではないし、言うべきことは言うべきなんですが。ただ、今は情報量も多いし、耳学問も増えているから、「変に、やりもしないで評論家になってしまう」人が20代に多いんですよ。
それは自分のバリューを下げる行為で、逆に20代のうちに言われたことを徹底的にできる人、徹底的にやってみてそこからスピード感をもって様々なことを吸収学習できる人材価値は乗数的に上がっていきます。
当たり前のことなのですが、まずなによりも経験数からどれくらい学んでいるかが、30代以降に大きく効いてきますので、三振の数も含めてどれくらい打席に立ったのかが非常に大事ですね。
ー井上氏
30代あたりになると、「試行錯誤力」というか、大小問わず仕事のテーマがいっぱい降ってくる環境に身を置いた方がいいですね。
そうやって責任ある役割を組織の中間の立場で担うことで、解決力、対応力を求められる。30代は一番スキルを身に付けるべき時期なので、常に試行錯誤して問題解決を行っていく環境が良いですね。
だから自分が深く関わって「今後この領域でやっていこう」というテーマを、30代の間に決めてしまえる人。そのテーマに関連する専門性や経験を、徹底的に磨きこんでいくような動きが出来る人は、バリューが出ます。
40代以上になると、さらにそれを磨きこみ続けることが大事なんですけど、もう一つ大事なのは「問いを見つける」ことでもあって。
ー編集部
「問いを見つける」とはどういう事でしょう?
経営人材と幹部人材の違いは「問い自体を見つけられるかどうか」
ー井上氏
強いのは、「問い自体を設定できる人」です。以前から講演でお話ししたりコラムにも何度か書いていますが、経営者JP社内では常に「経営人材」と「幹部人材」という言い方をしています。
「経営人材」というのは、経営者の方と経営層。社長から取締役、CXO、事業部長もここに入っていて良いですね。
「幹部人材」というのは課長層から部長層。いわゆるミドルの中間管理職です。
幹部人材にあたる管理職層は、経営層や事業から出された問いに答えて、回答=業務での結果を出せないとダメなわけです。
例えば、あるエリアを担当していて業績を改善したい場合に、試行錯誤をしながら解決策を出せる人。理想的にはすぐに最適解を出せる人ですね。
その結果「それなり以上」の業績結果、成果を出すことにコミットできる人が管理職として価値が上がると思います。
一方で経営人材は、与えられる問いに答えを出すだけではダメです。
「問い」自体を定義できるかどうか、言ってしまえば自分で自分にボールを投げられる人であることはすごく大事。
いま、今後、わが社はなにをすべきか。自分が担当している事業を今後更に成長させるために、いったい、どこから手をつけるべきなのか。「正しい質問を設定できたら8割解決」というのと同じ考え方ですね。
だから問い自体が間違っている時に、一生懸命、回答を見つけに行っても、やっぱりビジネスってうまくいかない。例えば、集客を改善したい時に、全然ピント外れのところを、一生懸命掘り下げに行っててもダメですよね。
どんな対策が取れる人を集めてくるかも同じで、「船頭多くして船山に登る」にはなってはならない。誰を連れてくるべきなのかというそもそもの設定が間違っていれば、いくら「優秀な」人材を持ってきても巧くいくはずがありません。
これらの話は共通して、「戦略の失敗は戦術では取り返せない」という話です。「戦略を立てる人」が経営人材で、「戦術を立てる人」が幹部人材と言ってもよいでしょうk。
問いに対する解決策・解決力も勿論備えながら、自分が関わることについて、自分で問いを設定できる人が経営人材となります。逆に、これができない人は、肩書が取締役であれ、社長であれ、「経営人材」ではありません。
世代ごとの成功する人のイメージをまとめると、以下のようになります。
- 20代:やりもしないで評論家にならない・言われたことをまず徹底的にやってみることのできる人
- 30代:降りかる仕事の山に試行錯誤を繰り返し、問いに対する答えを出し続ける経験を積み重ねていく人
- 40代~:自分で「問い」を見つけ出し設定できる、「経営人材」である人
こういった世代ごとのテーマをクリアしていく人が、成功する人材です。
もちろん早回しで20代で起業する人などもいますけど、これらの3つの段階を並走しながら乗り越えているだけの違いだといえるでしょう。
早いタイミングで先の段階を求められるわけですから、やっぱり大変な思いもしますよね。仕事で活躍したりうまく幸せを掴んでいる人って、そういう一つひとつの段階をちゃんと積み重ねているかが大事だと考えています。
早く「デビューする」のが必ずしも良いとは限らない
ー井上氏
だから、早くデビューするのが良いかというと、必ずしもそうでもないなという気がしています。
20代などで若くして、早く責任ある立場に飛び出して、そのまま這いつくばりながら成長段階を経ていった人は、やはり風格がありますよね。
私も早くして起業した人を多く見てきましたが、その後継続して成功している人と、一時期脚光を浴びてもいつの間にか消えてしまった人の間には、この経験積み重ねの部分での大きな差があります。
僕自身もリクルートから始まり、一般の世代感よりは10歳から時には20歳くらい前倒しで責任ある仕事を任せてもらいながら、自分でチャレンジしながら歩んできていますので、<適度な背伸び感>の大切さは経営者JPでの採用や職務のアサインの仕方を含めて活かしていることがあります。
早回しはとても良いのですが、各段階を経験していないというのは致命的。若手起業家で消えていった方々の共通項は、アイデアなどで一発当たってしまったものの、ご自身の積み重ねがなかったが故に崩れてしまったというケースがほとんどに見えます。
だから、焦って早くデビューすることだけがその人にとって正解とはいえない。
私はリクルートエグゼクティブエージェント社に参画する前に、グロービスグループのいまはなくなってしまった人材紹介子会社の事業開発に少しだけ関わらせていただいたのですが、そのグロービスの創業者の堀さんが言っていたことで今でも印象に残っているものがあります。
10年ほど前、当時堀さんが40代前半だったと思いますが、既にグロービスはメジャーな会社になっていました。堀さんご自身「ダボス会議」などにも参加され世間からも注目もされてましたし、風格もある人だから「このままメディアや財界の最前線にどんどん出ていかれるのかな」と思ったのですが。
堀さんいわく「僕は自分のピークを60歳に置いてるから。そこをピークにしたいから、いまはまだそんなに表には出ないんだ」ということをおっしゃられて、とても印象的でしたね。
ー編集部
視点がとても面白いですね。
ー井上氏
だから冒頭の話にも戻りますが、いま興味のあること、得意なことにフォーカスしつつも「自分のピークはどこにあるのか」を意識してキャリアを考えていったり転職活動をするのが良いと思いますね。
ー編集部
どうもありがとうございました。次回は井上さんの経験から、転職業界の裏話なども聞かせていただければと思います!
ー井上氏
宜しくお願いします。
ちなみに、経営者JPではリーダー層向けのセミナー・イベントも多く開催している。
2018年11月22日(木)に、井上氏が講師を務めるキャリア戦略をテーマとした下記ワークショップが東京・恵比寿にて開催されるので、興味がある方はぜひチェックしてほしい。
AI時代、人生100年時代に「勝ち残るリーダー10の条件」ワークショップ
経営者JPの企業情報
- 株式会社 経営者JP
- 代表者:代表取締役社長・CEO 井上和幸
- 設立:2010年
- 資本金:1000万円
- 従業員数:16名
- 住所:東京都渋谷区広尾1-16-2 VORT 恵比寿Ⅱ 6F
- ネットワーク・提携:kEIEISHA JP ASIA
- 求人メディア:経営者JPエグゼクティブサーチ
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